ヘルスケア事業に挑戦する企業のための倫理審査ガイド Vol.5
医療機器・Non-SaMDの実証実験に倫理審査は必要?企業が知っておきたい判断ポイント【2026年版】
― 製品・サービスの研究・実証を進める企業のための倫理審査ガイド ―

「開発中の製品を実際に人に使ってもらって評価したい」
「ヘルスケアサービスの実証実験を行いたいけれど、倫理審査は必要?」
「医療機器ではない製品なら、倫理審査は必要ない?」
医療・ヘルスケア領域では、新しい製品やサービスを開発する過程で、実際に人に使用してもらったり、アンケートや健康に関するデータを取得したりすることがあります。
特に近年は、医療機器メーカーだけでなく、IT、電機、センサー、素材、食品、スポーツ、介護など、さまざまな業界の企業がヘルスケア領域へ参入しています。
その中で企業の担当者が迷いやすいのが、「この実証実験に倫理審査は必要なのか」という問題です。
ここで注意したいのは、「医療機器に該当するかどうか」と「倫理審査が必要かどうか」は、必ずしも同じ判断ではないということです。
医療機器ではない製品・サービスやNon-SaMDであっても、人を対象として研究を行う場合などには、研究倫理の観点から確認や対応が必要になることがあります。
この記事では、医療機器やNon-SaMD、ヘルスケアサービスなどの研究・実証実験を行う企業に向けて、倫理審査を考える際の基本的なポイントを解説します。
1.医療機器の実証実験なら、必ず倫理審査が必要?
「医療機器を人に使用するなら、倫理審査が必要」反対に、「医療機器ではないなら、倫理審査は必要ない」
と考えてしまうことがあります。
しかし、倫理審査の必要性は、製品が医療機器に該当するかどうかだけで判断できるものではありません。
重要なのは、その取り組みで何を行い、誰からどのような情報を取得し、それを何のために利用するのかです。
例えば、同じ製品を使用する場合でも、
- 製品の操作性を社内で確認する
- 一般の人に使用してもらい、アンケートを取得する
- 健康な人に使用してもらい、身体に関するデータを取得する
- 患者さんに使用してもらい、症状や健康状態の変化を評価する
- 医療機関と共同で研究として実施する
といったケースでは、実施内容や目的、取得する情報などが異なります。
そのため、「製品が何か」だけではなく、「何を目的として、どのような方法で評価するのか」まで整理して判断することが重要です。
2.Non-SaMDなら倫理審査は不要?
ヘルスケア領域では、医療機器に該当しない製品・サービスについて実証実験を行うケースも多くあります。
例えば、
- PHRをはじめとする健康管理アプリ
- ウェアラブルデバイス
- センサーを活用したサービス
- 睡眠・運動・食事などを支援するサービス
- 健康増進を目的としたプログラム
- 介護・見守りサービス
- AI・デジタル技術を活用したヘルスケアサービス
などです。
このうち、疾病の診断・治療・予防を目的とした医療機器プログラム(SaMD)に該当しない健康管理アプリなどは、Non-SaMDと呼ばれることがあります。
ただし、Non-SaMDであることと、研究倫理上の対応が不要であることは別の問題です。
医療機器に該当しない製品・サービスであっても、人を対象として健康や医療に関する情報・データを取得し、一定の目的のもとで評価・分析する場合などには、研究としての整理や倫理審査の要否確認が必要になることがあります。
「医療機器ではないから大丈夫」と製品区分だけで判断するのではなく、実証実験そのものの目的や内容を確認することが重要です。
3.企業の実証実験・PoCで確認したい5つのポイント
では、自社の実証実験について倫理審査を検討する際には、何を確認すればよいのでしょうか。
企業の実証実験やPoCでは、少なくとも次のような点を整理しておくと判断しやすくなります。
① 誰を対象にするのか
まず確認したいのが、実証実験の対象者です。
例えば、
- 自社の社員
- 健康な一般の方
- 高齢者
- 患者さん
- 医療機関の受診者
など、対象者によって必要となる配慮は異なります。
また、よくある誤解として、「社員を対象にするから倫理的な問題はない」と単純に判断できるとは限りません。
例えば、上司と部下などの関係性によって参加を断りにくい状況になっていないか、参加しないことで不利益を受けないかなど、対象者の募集方法や参加の自由意思について検討が必要になる場合もあります。
② 何をしてもらうのか
次に、対象者に何をしてもらうのかを整理します。
例えば、
- 製品を装着してもらう
- アプリを使用してもらう
- 運動プログラムを実施してもらう
- 食品を摂取してもらう
- アンケートに回答してもらう
- インタビューを行う
などです。
対象者への負担やリスクを考えるうえでも重要なポイントです。
③ どのような情報・データを取得するのか
実証実験では、さまざまなデータを取得することがあります。
例えば、
- 年齢・性別などの基本情報
- アンケート回答
- 睡眠・活動量
- 心拍数などの生体情報
- 健康状態に関する情報
- 診療情報
- 製品・サービスの利用履歴
などです。
特に健康や医療に関する情報を取得する場合には、取得する情報の範囲だけでなく、利用目的、管理方法、保存方法などについても整理しておく必要があります。
④ 取得したデータを何に使うのか
意外と見落とされやすいのが、「取得したデータを最終的に何に利用するのか」という点です。
例えば、
- 製品開発の社内検討だけに利用する
- 製品・サービスの有用性を評価する
- 研究成果として学会発表する
- 論文として公表する
- 外部向けの資料や事業展開に利用する
- 今後の研究開発に二次利用する
など、目的はさまざまです。
「とりあえずデータを取って、後から使い方を考える」という進め方では、後になって利用できる範囲に問題が生じる可能性があります。
実証実験を始める前に、データの利用目的まで考えておくことが重要です。
⑤ 誰と一緒に実施するのか
企業のヘルスケア実証では、
- 医療機関
- 大学・研究機関
- 自治体
- 介護施設
- 他の企業
などと連携することがあります。
複数の組織が関係する場合には、それぞれが何を担当するのか、誰が研究を実施するのか、どの組織でどのような手続きが必要なのかを整理する必要があります。
特に医療機関や大学と共同で実施する場合には、倫理審査を含む研究手続きについて早い段階で確認しておくことが重要です。
4.「実証実験だから研究ではない」とは限らない
企業では、「研究」という言葉より、
「実証実験」「PoC」「モニター試験」「ユーザーテスト」「トライアル」などの名称が使われることがあります。
しかし、社内で何と呼んでいるかだけで、研究に該当するかどうかが決まるわけではありません。
例えば「PoC」という名称で実施していても、人を対象として一定の方法でデータを取得・分析し、製品やサービスの有用性などを評価する場合があります。
反対に、人が製品を使用する取り組みであっても、その目的や方法によっては研究として整理されない場合もあります。
そのため、「PoCだから倫理審査はいらない」「実証実験だから研究ではない」と名称だけで判断するのではなく、実際の目的や実施内容を確認する必要があります。
5.医療機器メーカー以外でも、倫理審査が関係することがある
倫理審査というと、「製薬会社や医療機器メーカーが行うもの」というイメージを持たれるかもしれません。
しかし近年では、既存技術を活用してヘルスケア新規事業に取り組んだり、異業種からヘルスケア領域へ参入したりする企業もあります。こうした企業が、人を対象とした実証実験やPoCを行う場合にも、研究倫理や倫理審査への対応が関係することがあります。
例えば、
- 電機・電子機器
- 半導体・センサー
- IT・AI
- 通信
- 食品
- 化粧品
- スポーツ
- 住宅・住環境
- 介護
- モビリティ
など、もともと医療を本業としていなかった企業が、自社の技術やサービスをヘルスケア領域に展開するケースがあります。
こうした企業では、製品開発や事業開発の経験は豊富でも、「人を対象とする研究は初めて」、「倫理審査を社内で扱ったことがない」、「そもそも社内に倫理審査委員会がない」ということも珍しくありません。
特にヘルスケア新規事業では、製品開発や実証先の確保が先に進み、実証実験の直前になって倫理審査や研究倫理上の対応が必要だと気づくことがあります。
ヘルスケア領域で人を対象とした評価を予定している場合には、実証実験の実施場所や日程を決める前の段階から、必要な手続きを確認しておくことが重要です。
6.医療機関と実証実験をすれば、倫理審査は医療機関に任せればいい?
医療機関と共同で実証実験を行う場合、「病院の倫理審査委員会に出せば、あとは病院に任せればよい」と考えることもあるかもしれません。
しかし、企業側でも整理しておくべき事項があります。
例えば、
- 研究の目的は何か
- 企業と医療機関のどちらが主導し、どのような役割を分担するのか
- どのデータを誰が取得するのか
- 企業はどのデータを受け取るのか
- 取得したデータを何に利用するのか
- 研究終了後にデータをどう扱うのか
などです。
医療機関が倫理審査の申請を担当する場合であっても、研究計画そのものを医療機関だけで決められるとは限りません。むしろ企業側の目的や製品評価の方法が整理されていなければ、研究計画書の作成や倫理審査の準備に時間がかかることがあります。
医療機関へ相談する前に、企業側でも実証実験の目的や評価したい内容を整理しておくと、その後の調整を進めやすくなります。
7.実証実験のどのタイミングで倫理審査を確認する?
倫理審査については、実証実験の内容がすべて決まってから確認するのではなく、企画・研究設計の段階で一度確認することをおすすめします。
なぜなら、倫理審査の必要性だけでなく、
- 対象者の選び方
- 評価項目
- データの取得方法
- 同意の取得方法
- 実施体制
- 医療機関や大学との役割分担
などが、研究計画や必要な手続きに関係することがあるためです。
実証実験の直前になって確認すると、「研究計画を見直す必要がある」、「説明文書や同意書を準備する必要がある」、「倫理審査を受ける期間を確保していなかった」といったことが判明し、実証実験のスケジュールに影響する可能性があります。
特に初めてヘルスケア領域で実証実験を行う企業では、実施日から逆算するのではなく、企画段階で必要な対応を洗い出しておくことが重要です。
8.倫理審査が必要かわからない場合、外部の専門家に相談する方法も
企業内に研究倫理や倫理審査の経験者がいない場合、
「そもそも倫理審査が必要なのかわからない」
「実証実験の設計自体に問題がないか確認したい」
「研究計画書を作ったことがない」
「医療機関とどう役割分担すればよいかわからない」
といった段階で進め方に迷うことがあります。
このような場合には、倫理審査の申請直前ではなく、企画・研究設計の段階から外部の専門家に相談する方法もあります。
倫理審査のコンサルティングや研究倫理の支援では、サービスによって対応範囲は異なりますが、
- 倫理審査が必要かどうかの整理
- 研究・実証内容の整理
- 研究計画の検討
- 申請書類の作成支援や助言
- 外部倫理審査委員会への申請
- 医療機関・大学等との研究実施に向けた整理
などについて相談できる場合があります。
ヘルスケアサーカスでは、企業の研究・実証実験について、「倫理審査を受ける段階」だけでなく、その前の企画・研究設計の段階からご相談いただけます。
医療機器、Non-SaMD、ヘルスケアサービスなどの実証実験について、「自社の場合、倫理審査が必要なのかわからない」という段階でもご相談いただくことが可能です。
まとめ「医療機器かどうか」だけで倫理審査の要否を判断しない
医療機器やNon-SaMD、ヘルスケアサービスなどの実証実験では、製品・サービスの種類だけを見て、倫理審査が必要かどうかを判断できるとは限りません。
重要なのは、
誰を対象として、何を行い、どのような情報を取得し、その結果を何のために利用するのか
という実証実験・研究そのものの内容です。
特に、異業種からヘルスケア領域へ参入する企業では、製品・サービスの開発が進んだ後に、初めて研究倫理や倫理審査への対応が必要だと気づくことがあります。
実証実験の日程や実施先が決まってから慌てて対応するのではなく、企画段階で一度、倫理審査や研究倫理上の対応が必要か確認しておくことをおすすめします。
「医療機器ではないから倫理審査は不要?」
「このPoCは研究にあたる?」
「医療機関と実証したいが、どこから準備すればいい?」
と迷っている場合には、ぜひ弊社へお気軽にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q1.Non-SaMDの実証実験でも倫理審査が必要ですか?
Non-SaMDであることだけで、倫理審査が不要とは判断できません。実証実験の目的や対象者、取得するデータ、評価・分析の方法などを踏まえて、研究としての整理や倫理審査の要否を確認する必要があります。
Q2.PoCや実証実験であれば、倫理審査は不要ですか?
「PoC」「実証実験」という名称だけで倫理審査の要否は決まりません。誰を対象に何を行うのか、どのようなデータを取得・分析するのか、何を目的として実施するのかなど、実際の内容から判断する必要があります。
Q3.倫理審査が必要かわからない段階でも相談できますか?
はい。ヘルスケアサーカスでは、倫理審査の申請だけでなく、要否判断や研究・実証内容の整理、研究設計、申請準備などについてもご相談いただけます。
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