ヘルスケア事業に挑戦する企業のための倫理審査ガイド Vol.1

コラム

倫理審査は必要?不要?企業が知っておきたい判断基準【2026年版】

「倫理審査って、本当に必要ですか?」

ヘルスケア事業に挑戦する企業から、私たちが多くいただく質問の一つです。

AIを活用したヘルスケアサービス、化粧品や食品の実証実験、社員モニターを対象とした検証、新しい医療機器やデジタルヘルスの開発・・・。

近年、多くの企業がヘルスケア領域へ参入する中で、「人」を対象としたデータ取得や実証、研究を行う機会は増えています。

一方で、

  • 「うちの会社には関係ないと思っていました」
  • 「社員同士で試すだけなので大丈夫だと思っていました」
  • 「倫理審査が必要なら病院が対応してくれると思っていました」
  • 「まずは実証を始めて、必要なら後から整えればいいと思っていました」

このようなお声も少なくありません。

企業では、新しい事業を立ち上げる際、スピードや市場性、コストを優先して検討することが多く、倫理審査は「指摘されてから考えるもの」と認識されやすいからです。

しかし、本当に注意したいのは、

「倫理審査を受けなかったこと」だけではありません。

より重要なのは、

「倫理審査が必要かどうかを確認しないまま進めてしまうこと」です。

必要な確認や手続きを行わずに研究・実証を進めてしまうと、計画の見直しやスケジュールの遅延などにつながる可能性があります。

さらに、企業にとって大きな損失になり得るのが、「信頼」です。

医療機関との関係、共同研究先との信頼、取引先からの評価、そして企業ブランド。

これらは長い時間をかけて築く一方で、研究や実証の進め方によって損なわれる可能性があります。

だからこそ、ヘルスケア事業では「必要になってから考える」のではなく、企画や実証を始める段階から倫理審査について確認しておくことが重要です。

本記事では、

「そもそも倫理審査とは何なのか?」

「自社の実証実験には倫理審査が必要なのか?」

という疑問について、ヘルスケア事業に取り組む企業の方向けに解説します。


1.そもそも「倫理審査」とは?

倫理審査とは、人を対象とする研究などを実施する際に、研究計画が倫理的・科学的に適切であるか、研究対象者の権利や安全が守られているかなどについて、第三者の委員会が確認する仕組みです。

日本では、人を対象とする生命科学・医学系研究について、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」が定められています。

倫理審査は、単に「研究を実施してよいか許可をもらうための手続き」ではありません。

研究対象者を守るとともに、研究を適切に実施し、その研究や実施する組織への信頼を支えるための重要なプロセスです。


倫理審査を理解するために知っておきたい基本用語

倫理審査について調べていると、「倫理指針」「倫理審査委員会」「研究倫理審査委員会」「IRB」など、さまざまな言葉が登場します。

初めて倫理審査に関わる企業担当者の方にとっては、分かりにくい部分でもあります。

まずは基本的な用語を整理しておきましょう。

人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針

人を対象とする生命科学・医学系研究に携わる関係者が遵守すべき事項などを定めた国の倫理指針です。文部科学省・厚生労働省・経済産業省により策定されています。

研究倫理審査(倫理審査)

研究計画について、倫理的・科学的な妥当性や研究対象者の権利・安全への配慮などを確認するプロセスです。

研究倫理審査委員会

研究計画について、倫理的・科学的な観点から審査を行う委員会です。「倫理審査委員会」など、組織や制度によって異なる名称が使われる場合があります。

Institutional Review Board(IRB)

研究を審査する委員会を指す英語表現として使われます。日本では「倫理審査委員会」などの意味で使われることがありますが、研究の種類や制度によって名称や位置づけが異なる場合があります。

※研究の種類によって、適用される法令・指針や必要となる手続きは異なります。


2.すべての実証実験に倫理審査が必要なわけではない

では、企業が行う実証実験には、必ず倫理審査が必要なのでしょうか。

答えは、「研究や実証の内容によって異なります」

つまり、すべての実証実験やデータ取得に、一律で倫理審査が必要になるわけではありません。

だからこそ、判断が難しいともいえます。

また、よくある誤解として、次のようなものがあります。

「医薬品や医療機器ではないから」

「匿名でデータを取得するから」

「身体への侵襲がないから」

「医療機関ではなく自社で実施するから」

「社員だけを対象にしているから」

これらを理由に「不要」と考える方も少なくありません。

ですが、こうした条件だけで、倫理審査が「必要」「不要」と判断できるとは限りません。

倫理審査の要否は、研究・実証の内容や目的などを踏まえ、適用される法令・指針等を確認したうえで個別に検討する必要があります。

Point

大切なのは、自社だけで「必要」「不要」と決めてしまうことではありません。

分からない段階で、一度確認することです。


3.「PoC」「モニター」「実証実験」なら倫理審査は不要?

企業では、「研究」という言葉を使わず、

PoC、実証実験、モニター試験、ユーザーテスト、トライアル

といった名称で、人を対象とした検証が行われることがあります。

ここで注意したいのは、社内でどのような名称を使っているかだけで、倫理審査の要否が決まるわけではないということです。

「これは研究ではなくPoCだから」

「商品モニターだから」

という理由だけで判断するのではなく、実際に何を目的として、何を行うのかを確認することが重要です。

ヘルスケア領域では、事業開発の延長線上で始めた取り組みが、人を対象とした研究やデータ取得と接点を持つことがあります。

だからこそ、実証を始める前の確認が重要になります。


4.倫理審査は「後から受ければいい」とは限らない

もう一つ、企業の方に知っておいていただきたいのが、倫理審査を確認するタイミングです。

例えば、実証を始めてデータを取得した後に、下記のように考えるケースがあります。

「良い結果が出たので学会で発表したい」

「論文化してエビデンスとして活用したい」

「医療機関との共同研究につなげたい」

しかし、その段階で初めて倫理審査について確認しても、当初の計画や取得済みデータの扱いについて検討が必要になる場合があります。

倫理審査が必要となる研究については、研究を始める前に必要な手続きを確認することが基本です。

「必要になったら後から考える」のではなく、

「将来、このデータをどう使う可能性があるか」まで考えて、事前に確認しておく。

この視点が、企業のヘルスケア事業では重要になります。


5.倫理審査が「不要」なら、それで終わり?

検討した結果、倫理審査が不要となるケースもあります。

しかし、企業としては、

「不要だったから何もしなくてよい」

と考えるのではなく、

「なぜ現時点では不要と考えられるのか」

を整理しておくことが重要です。

なぜなら、事業が進むにつれて、実証や研究の内容が変わる可能性があるからです。

当初の計画から対象者や取得する情報、実施内容、データの利用方法などが変われば、改めて確認が必要になる場合があります。

そのため、

一度「不要」となれば、その後ずっと不要とは限らない。

この点も覚えておきたいポイントです。


6.倫理審査の確認は、早いほど進めやすい

「まだ企画段階だから、倫理審査について考えるのは早い」

と思われるかもしれません。

しかし、実際には企画段階だからこそ確認しやすいともいえます。

実証開始の直前になってから必要な対応が分かると、計画やスケジュールを見直さなければならない可能性があります。

一方、早い段階で確認しておけば、それを踏まえて実証や研究の進め方を検討できます。

倫理審査について確認することは、企業の挑戦を止めるためのものではありません。

後から大きく戻ることを防ぎ、適切に前へ進めるための準備です。


7.「自社は倫理審査が必要?」と思ったら

ここまで読んで、

「では、自社の実証実験には倫理審査が必要なのだろうか?」

と思われた方もいるかもしれません。

ヘルスケアサーカスでは、最初の目安として、ホームページに「倫理審査が必要か簡易チェック」を掲載しています。

「倫理審査が必要か簡易チェック」を確認する

  • 人の健康や生活に関わる情報やデータを取得するか
  • 取得したデータを社外に公表する予定があるか
  • 安全性・有効性・影響について第三者による確認が必要か

など、まず確認しておきたいポイントをご紹介しています。

※簡易チェックは、倫理審査の要否を確定するものではありません。実際の要否は、個別の研究・実証内容や適用される法令・指針等を踏まえて確認する必要があります。

「まだ企画段階だけど相談していいのかな?」というタイミングでも構いません。

むしろ、計画を変更できる余地が大きい段階だからこそ、早めに確認する意味があります。

「必要になってから」ではなく、「今のうち」に確認することが、企業の挑戦を守る第一歩になります。


まとめ 重要なのは「必要か分からないまま進めない」こと

すべての実証実験やデータ取得に、倫理審査が必要なわけではありません。

一方で、

「社員だから」

「PoCだから」

「匿名だから」

といった理由だけで、簡単に「不要」と判断できるものでもありません。

企業にとって重要なのは、倫理審査が必要かどうかを、自社だけで判断して進めてしまわないこと。

そして、分からないのであれば、実証や研究を始める前に確認することです。

ヘルスケア事業では、事業が進むにつれて、実証、研究、医療機関との連携、学会発表、論文化などへ発展する可能性があります。

だからこそ、早い段階から研究倫理について考えておくことが、後の選択肢を守ることにつながります。

ヘルスケアサーカスでは、倫理審査の要否に関するご相談から、研究設計、倫理審査、研究実施に向けた体制づくりまで、企業の研究・実証を支援しています。

「自社の場合は倫理審査が必要なのか分からない」

という段階でも、お気軽にご相談ください。


※本記事は2026年8月時点の情報をもとに、一般的な情報提供を目的として作成しています。個別の研究・実証における倫理審査の要否や必要な手続きは、研究内容、適用される法令・指針、実施機関等によって異なります。

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